KAMPAI
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すべてのカンパイにSTORYがある──「KAMPAI」誕生

小西未来

すべてのカンパイにSTORYがある──「KAMPAI」誕生

ドキュメンタリー映画「カンパイ!」が進化しました

ぼくが日本酒に恋したのは、ある偶然の出会いがきっかけでした。

はじめまして。「カンパイ!世界が恋する日本酒」と「カンパイ!日本酒に恋した女たち」というドキュメンタリー映画を手がけた小西未来といいます。

運命の出会い

2012年、ロサンゼルスのリトルトーキョーで、知人を介して南部美人の久慈浩介さんと出会いました。

当時のぼくは、ハリウッド映画やドラマの取材をメインとするジャーナリストでした。ゴールデングローブ賞の審査員になったばかりで時間的な制約もあり、自分で何か作るならドキュメンタリーが現実的だと考えていました。でも、題材が見つからない。

そんななか、久慈さんに出会いました。

饒舌で、外交的で、その場にいる人みんなを魅了するようなエネルギーのかたまり。自分が勝手に思い描いていた、封建的で閉鎖的な世界の寡黙な職人たち、というイメージとはまったく違いました。

正直にいえば、それまでぼくは日本酒に関してまったくの無知で、試したお酒はどれも、おいしいとはとても思えませんでした。

しかし、この出会いは偶然には思えませんでした。ぼくは人生の大きな決断を、いつも直観に突き動かされてきました。このときも同じです。日本酒に関するドキュメンタリーを作ろうと決めました。

リサーチを進めるうちに、日本酒業界で活躍する外国出身者の存在を知りました。木下酒造のフィリップ・ハーパーさん、日本酒伝道師のジョン・ゴントナーさん。また制作過程で、東日本大震災で被災された鈴木酒造店の鈴木大介さんの物語も盛り込むことができました。

最前線に入る体験

この映画をきっかけに、ずぶの素人のぼくは、日本酒業界のコアな部分に立ち入りを許されました。

いきなり蔵に入り、日本酒醸造の奥深い世界を目の当たりにする。蔵人のみなさんと晩酌し、贔屓の飲食店に連れていってもらう。よく考えれば、飲んで食べてばかりですね。でも、その過程で、いつのまにか日本酒の大ファンになっていました。

つまり、ドキュメンタリー映画というきっかけを経て、いきなり最前線に招いてもらえたわけです。おいしいお酒はもちろん、それにまつわるエピソード、そして人々との出会い。この体験がすべてを変えました。

もしドキュメンタリー映画を作っていなかったら、おそらくこの素晴らしい世界と縁はなかったでしょう。

この経験から、次に注目したのは日本酒業界で活躍する女性のみなさんでした。富久長の今田美穂さん、日本酒ソムリエの千葉麻里絵さん、日本酒コンサルタントのレベッカ・ウィルソン・ライさん、そして編集者の神吉佳奈子さん。彼女たちとの出会いを「カンパイ!日本酒に恋した女たち」という映画にまとめました。

1作目が震災というやや重い題材を取り入れたこともあってか、2作目は軽やかで元気の出る、素敵な作品になったと思います。

それから第3弾を始めたとき、新型コロナウイルスの感染拡大が起きます。インディペンデント映画の配給や資金調達をめぐる環境も変化し、いったん棚上げせざるを得なくなりました。

日本酒やその世界の人々の魅力を伝えたい。だけど、その実現が難しい。やり残したような気持ち、お世話になった人たちへの申し訳ない気持ち、どうにもならないフラストレーションを抱えて、数年が経ちました。

映画の限界、そして可能性

転機は突然やってきました。

帰国の際、この業界の恩人ともいえる方との食事の席でのことです。何気なく言われた一言が、頭から離れませんでした。「メディアをたちあげたら?」

この言葉にぼくは衝撃を受けました。自分が貢献できる方法は、ドキュメンタリーや映像しかないと考えていたからです。

でも、言われてみれば、自分にはライターとしての長い経験があり、ウェブメディアの編集もやっています。ノウハウはある。

なにより、その可能性の大きさにショックを受けました。

「カンパイ!」2作を制作したとき、世界の映画祭でイベントをしました。酒蔵のみなさんが喜んでくださいました。日本酒のイベントはいくらでもある。でも、そこにくるのは、日本酒にもともと関心がある人がほとんどです。しかし、映画祭のイベントにくるのは一般の人たちであり、だからこそそれまでと違った層にリーチができる、と。

でも、映画には限界もあります。製作に時間がかかり、届けられる情報量にも制約がある。上映機会も限られています。何より、ぼくが体験した「いきなり最前線に入る」という体験を、限られた人にしか提供できません。

日本酒は良質なプロダクトなのに、それが十分に周知されていないばかりに、ファンを増やせずにいる。この問題の核心が見えてきました。

必要なのは、日本酒の素晴らしさを、より多くの人に、より簡単に届ける仕組み。そして、ぼくが体験した「最前線に入る」感覚を、誰もが味わえるプラットフォームです。

映画からメディアへ

そこで、ドキュメンタリー映画ではなく、もっと大きなメディアを作ってしまおうと考えました。

ウェブメディアなら、常に最新の情報を発信でき、いつでもどこでも誰もがアクセスできる。そして、一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションが可能になります。

『KAMPAI』は、酒蔵、酒販店、飲食店、そして世界中のユーザーをつなぐメディアです。日本酒を世界に広めるために、それぞれがすでに懸命に努力されていること。それらをひとつに集約し、言語の壁を取り払います。

ぼくが素人から日本酒ファンになれたのは、たまたま「最前線に入る」機会に恵まれたからです。

この体験を、誰もが手軽に味わえるようにする。それが『KAMPAI』の使命です。

映画は何万人かに届けることができた。でも、メディアなら、何百万人もいける。その確信が、いまのぼくを突き動かしています。

「カンパイ!」を立ちあげたときと同じ高揚感が、全身を駆け巡っています。いや、あのときより、ずっと大きい。

一緒に、日本酒の未来を作りませんか?