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チリで、ハンバーガーと日本酒を合わせた夜

久慈浩介

チリで、ハンバーガーと日本酒を合わせた夜

正直に言うと、ハンバーガーに日本酒を合わせる夜になるとは思っていなかった。チリ、レニャッカ。サンティアゴから車で2時間、南太平洋を見下ろす沿岸の街に「SUMOKU」というアジアンフュージョンのレストランがある。夜、20名ほどが集まった会のテーマが「ハンバーガーと日本酒」だった。

レニャッカ「SUMOKU」で、ハンバーガーと南部美人を合わせた夜

 なぜハンバーガーなのか。シェフのペドロに聞くと、理由ははっきりしていた。「和食と日本酒が合うのは、もう当たり前だ。でもチリ人にとって和食はまだ特別で、ハンバーガーのほうがずっと馴染みがある」。彼が出してきたのは、照り焼きソースを塗り、ワサビマヨネーズをひそませた一皿だった。かぶりついて、南部美人を口に含む。甘辛と酸と米の旨味が、思った以上にきれいに繋がった。

 チリに来るのは3回目だ。ロサンゼルスからそのまま南に飛んで、11時間。前の2回と同じ国とは思えない。ここ数年、コロナのあとから、チリは急に動きはじめている。

 サンティアゴに戻って、手巻き寿司専門店「正」を訪ねた。カウンターのみ、オープン4ヶ月。オーナーは現地で「KINTARO」というラーメンチェーンを率いる野田社長だ。カウンターだけの寿司屋というのは、チリではまだ珍しい。置いている日本酒は南部美人の純米大吟醸 酒未来。開店前に、蔵の成り立ちと酒未来の話をスタッフに一通りした。その数日後、昼の1時間で、訪れた客の8割が酒未来を選んでいたと聞いた。チリ産のウニを使った手巻きがある。まさか南米で、と思いながら口に運ぶと、これが最高に美味い。

手巻き寿司専門店「正」の開店前スタッフトレーニング

 チリで動いているのはカジュアルな層だけじゃない。サンティアゴの超高級店「FUKASAWA」では、南部美人の純米大吟醸と大吟醸を軸にスタッフトレーニングを組んだ。高級ラインの売上が大きい店だから、2種類を徹底的に説明する。Wホテル・サンティアゴのプレオープン中の和食「TENGU」では、40名を招いたペアリング会を開いた。5皿の料理と5種類の南部美人を合わせて、最後に鏡開きをやる。伝統のセレモニーをはじめて見るチリの人たちが、想像以上に喜んでくれた。

Wホテル・サンティアゴ「TENGU」のプレオープンで鏡開き

 極め付けは在チリ日本国大使館での着席試飲会だった。曽根健孝・全権大使の主催で、日本食レストランの関係者、VIP、和食以外のレストラン関係者が、同じ部屋に集まった。南部美人から3種類を出した。カタドール審査委員の松崎晴雄さん、ロスの「サケスクールオブアメリカ」を率いるサケサムライの上野さんも来てくれた。1本1本、誰がどう造っているかを説明してから注ぐ。「味より先に、理念が伝わった」という手応えがあった。

在チリ日本国大使館で、曽根健孝全権大使主催の着席試飲会

 街のハンバーガー屋から大使館の正餐まで、同じ数日間のあいだに、チリは日本酒を抱えにきている。カジュアルとフォーマルが同時に動いている。こういう国は、あまりない。

 最後の夜、サンティアゴの和食名店「GAKU」で反省会をした。この場でどうしても試したかったのが、糖類無添加ゆずレモンとから揚げの組み合わせだ。大使館の試飲会で熱く語った相性を、ここで実際に出してもらう。かじって、ひと口。話した通りに合う。参加者のみんなが唸った。こういうときに、言葉より皿が先に届く。

GAKUで、糖類無添加ゆずレモンとから揚げを合わせて

 南部美人をはじめとする多くの地酒をチリで動かしているのは、HALOSURの西井社長だ。本格的に日本酒が届きはじめたのはコロナのあと、まだ数年。それでも、この速度だ。私の実感を素直に書くと、いまチリは、世界のどこよりも速く日本酒が広がっている国のひとつだと思う。

 次はまた別のどこかだ。「ハンバーガーにも合うよ」という言葉が通じる場所を、もう少し増やしていきたい。