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地球の裏側で、日本酒が根づくということ

久慈浩介

地球の裏側で、日本酒が根づくということ

2004年、初めてブラジルに南部美人を持っていった。サンパウロの日本食レストランに営業をかけて、なんとか置いてもらう。当時のサンパウロには日系人が経営する和食店がたくさんあったが、日本から行く人間が食べると「どこか違う」という味の店が多かった。カラオケはレーザーディスク。そういう時代だった。

 あれから22年。今回サンパウロに降り立って、私は別の国に来たのかと思った。

 リオデジャネイロのミシュラン2つ星「LASAI」。モダンブラジル料理のフルコースに組まれたワインペアリングの中に、日本酒があった。福島の「にいだしぜんしゅ」が、冷やしとお燗の両方で、コースに自然に寄り添っている。

LASAI のモダンブラジル料理の一皿。ワインペアリングの中に日本酒が自然に組まれていた

 誰かが「置いてください」と頼み込んだわけじゃない。ブラジル人シェフが自分の料理を突き詰めた結果、ワインの隣に日本酒が必要だという結論に達している。これが、今回の旅でいちばんの衝撃だった。22年前の自分に教えてやりたい。お前がやってることは、間違ってないぞ、と。

リオ「LASAI」のシェフ・スタッフと。南部美人の箱を添えて

 リオに連れていってくれたのは、「MEGA SAKE」のファビオ社長。ブラジルで南部美人の輸入販売を手がけるサケサムライで、サンパウロで寿司レストラン「MIYABI」も経営している。今回の出張の目玉は、このMIYABIで開かれたコラボイベントだ。

サンパウロの寿司レストラン「MIYABI」。ファビオ社長が経営する

 東京・西麻布のペアリングレストラン「ユリーカ」の千葉麻里絵さんと一緒にサンパウロに乗り込んだ。岩手県盛岡市出身のサケサムライ。三重県「作」の蔵元の奥様・清水雅恵さんも一緒だ。麻里絵さんはMIYABIのシェフと市場を回り、10時間以上かけて試飲と試食を繰り返し、コースを組み上げていった。

MIYABI の厨房。麻里絵さんとシェフが10時間以上かけてコースを組み上げた

 南部美人の特別純米に合わせたのは、現地のホタテ、枝豆、干ししいたけにマンゴーと乾燥トマトを入れたタルタル。山椒を少しきかせてある。東京でもサンパウロでもない、ここでしか生まれない一皿だった。

南部美人の特別純米をゲストに注ぐ

 初日はインフルエンサーやメディア。100万人フォロワーを持つ人たちが料理と酒の写真を撮りまくっていて、撮影の手際にこっちが勉強になった。2日目はMIYABIの常連客。どちらの夜も、反応がダイレクトで熱い。

ペアリングディナーの夜。MIYABI のスタッフと、南部美人の法被で

 22年前と決定的に違うのは、「日本酒とはこういうものです」と説明しなくてよくなったということだ。ブラジルの食のプロたちが、日本酒を自分たちの料理に使い始めている。

 サンパウロの日本食も、もう「どこか違う」とは言わせない。KAORIさんが営む居酒屋「QUITO QUITO」は外まで行列ができる人気店で、出てきたアジのなめろうには言葉を失った。まさか南米でこれが食べられるとは。

サンパウロの人気居酒屋「QUITO QUITO」。外まで行列が続く

 ブラジル人女性チームが切り盛りする「JOJOラーメン」の味噌ラーメンも、日本とほぼ変わらない。

ブラジル人女性チームが切り盛りする「JOJO ラーメン」の味噌ラーメン

 滞在中、ブラジル岩手県人会にも足を運んだ。地球の裏側に、岩手を故郷と呼ぶ人たちがいる。郷土の話で盛り上がっていたら、青森県三戸町出身のパイロットペン・ブラジルの松尾保郎社長を紹介された。三戸は二戸の隣町だ。地球を半周して隣町の人に会う。海外に出るたび、こういう縁に巡り会う。

 最後の夜、みんなでカラオケに行った。扉を開けた瞬間、「二戸のスナック?」と思うような空間だった。ブラジル人も日本人もごちゃまぜで歌っている。さすがにレーザーディスクではなくなっていた。ミシュランの星付きレストランからのスナックカラオケ。このギャップが最高だ。作の一升瓶を飲み干して、夜中まで騒いだ。

最後の夜、みんなでカラオケ。ブラジル人も日本人もごちゃまぜで、夜中まで歌った

 日本酒が「根づく」というのは、日本人が売り続けることじゃない。その土地の人たちが、自分たちの料理に、自分たちの暮らしに、自然に日本酒を取り込んでいくことだ。ブラジルでは、それがもう始まっている。

 22年かかったけれど。