シカゴの和食店「Kumiko」のキッチンに立ったとき、スタッフを見回して、ふと気づいた。日本人が、ほとんどいない。お客さんを見ても、日本人らしい顔はあまり見当たらない。それなのに、目の前に出てくる寿司もおつまみも、信じられないほどレベルが高かった。

シカゴの和食店「Kumiko」「Momotaro」「Tengoku」でスタッフトレーニング

 シカゴは10年ぶりだった。全米第3位の都市で、当時も大きな街ではあったけれど、和食をめぐる景色はずいぶん違っていた。10年前のシカゴで日本酒の話をするとき、相手はだいたい日本人だった。日系コミュニティの店に行き、日本人のシェフに話を聞き、日本人のお客さんに飲んでもらう。今回、その前提がぜんぶ書き換えられていた。

 今回シカゴ入りできたのには理由がある。南部美人をアメリカ全土に卸販売しているMutual Tradingさんが、シカゴでは自社グループのYAMASHO INCとしてあらたに販売免許を取り直してくれた。中西部の真ん中で南部美人を本格的に紹介する土台が、ようやく整ったところだった。だから今回はMTCグループのヤマショウさんにも訪ねていって、営業の皆さんに試飲をしながら、特に和牛と特別純米酒のペアリングをじっくり伝えた。

ヤマショウINCで、和牛と日本酒のペアリングを試食・試飲しながら説明した

 翌日からは、JUNさんと一緒にシカゴの有力和食店を一軒ずつ回った。「Kumiko」「Momotaro」「Tengoku」。いずれも街でしっかり評価されている店だ。スタッフトレーニングをして、お店で実際に出している寿司やおつまみを並べて、本格的にペアリングを組んで話した。試飲してくれた人は、そのあと、ほとんどがグラスで日本酒を頼んでくれた。

 驚いたのはそのあとだった。今回シカゴで営業に回った和食店、全部に南部美人の導入が決まった。一店も例外なく、だ。10年前のシカゴで、これと同じ動きが起きるとは想像できなかった。

 日本食レストラン「Summertime」では、特別純米、心白純米大吟醸、糖類無添加の梅酒、ノンシュガーゆずレモンの4種類を試飲してもらった。なかでも、ノンシュガーゆずレモンへの反応が大きかった。唐揚げにすっと寄り添う酸味で、誰の手が伸びるかを見ていれば、もうわかる。糖類無添加の梅酒も、シカゴの夜にあっさり溶けていった。

日本食レストラン「Summertime」で、ノンシュガーゆずレモンが唐揚げと合った

 市場視察にも回った。日系の大型スーパー「ミツワ」、韓国系の「Joong Boo Market」、有力ワインショップ。どこも、10年前と陳列がぜんぜん違う。日本酒の棚がしっかり育っていて、シカゴ市場でいまどんな日本酒が動いているのかが、棚を見ているだけで伝わってきた。

 最終夜の集まりは、シカゴでもアメリカでも珍しい場所で開かれた。「Konbini&Kanpai」。リカーショップでありながら、店内で立ち飲みができる。要するに、日本の「角打ち」だ。アメリカに角打ちがあるとは、10年前は考えもしなかった。お店の日本酒は全部、しっかり冷蔵庫で保管されていた。オーナーは、南部美人とユニクロがコラボでつくったTシャツで現れてくれた。

Konbini&Kanpai のオーナーは、南部美人とユニクロのコラボTシャツで現れてくれた

 シカゴから、ひとつ気づきを持ち帰ることになった。日本酒の話を、もう日本人だけにしているわけではない。和食店のスタッフも、お客さんも、リカーショップのオーナーも、日本人ではない人ばかりだった。それでも、お酒のことを真剣に聞いてくれて、自分の店に置きたい、自分の口で飲みたいと言ってくれる。日本酒は、もう日本人だけのものじゃないのだと、シカゴの夜に実感した。

 次に向かったのはニューヨークだった。南部美人がはじめて海外に酒を出した街だ。最初に酒を持ち込んだ場所に、もう一度立ちにいくことになる。

 その話は、次回。